講談社の「デジタル的利用許諾契約書」について昨今
池田信夫氏の記事などで話題になっているようで、ちょっと乗っかってみる。
まあ印税云々については、著者と出版社の力関係でいろいろ料率は変わるものですし、宣伝広告費等をどっちが負担するかでもいろいろ話が変わってくるので、外野がとやかく言う話でもないかと。
実際紙の書籍でも、昔は印税ったら「10%で印刷部数に対する支払い」ってのが相場でしたが、昨今PC系書籍だとそうでもないですし。私がライター時代に実際に出版社から打診受けた条件でも「8%で実売部数に対する支払い」とかが普通でしたから。あと「初版は印刷部数で払う代わりに2刷はいくら刷っても印税は無し。3刷からは実売部数で支払い」なんて変な条件のところもあったなぁ(結果的にそことの話は流れた)。
アマゾンなんかは印税の料率が高い代わりに、宣伝とはは原則一切なし(広告とかは全部著者側が独自に展開しないとならない)ですから、そことのトレードオフを考えないといけないと思います。
むしろ気になったのは、後段の「所有権」云々の問題。もしこれが誤記じゃなかったとした場合に考えられる可能性をいくつか考えてみました。
1. 音楽業界の「原盤権」と同じような想定をしている
音楽業界では、作詞・作曲者の著作権や実演家(歌手等)の著作隣接権とは別に、最終的に出来上がった原版に対してレコード会社等が原盤権を持つことが認められているので、それと類似した権利構成を取ろうとしているのではないかという推測。
デジタル書籍でも、著者の著作権とは別にデジタルデータへの加工・各種タグ等の挿入など一種のマスタリング作業が必要になる点は音楽業界と似ているので、この際ネット配信で先行している音楽業界の仕組みをそのまま導入してしまえ、と考える可能性はあると思います。
2. そもそも販売形態として「売り切り」を考えていない
どちらかというとこちらが私の推測の本命で、講談社は電子書籍を「売り切り」ではなく、あくまで期間限定の「利用権付与」の形でのみ販売しようとしているのではないか、という推測。
期間限定の利用権付与であれば、販売形態としては現在の書店での販売(所有権移転)ではなく、むしろ貸本(あくまで所有権は貸本屋にあり、読者は一定期間それを借りるだけ)の形態に近くなるわけで、その上で「出版社が自ら貸本屋を経営する」と考えれば、所有権は出版社(この場合講談社)が独占できます。
ただ同契約書には「卸価格及び販売価格」とか、売り切りを前提としているような単語も並んでいるわけで、そのへんの兼ね合いをどう考えているのかが微妙なところ。
3. 「所有権」の対象が実は二次著作物・中間データのみである
もう一つ思いついたのが、本条項は本来「デジタル化の過程で発生する中間データの取り扱い」を定めたものではないかという推測。
書籍のデジタルデータ化の場合、最終的にパッケージ化する前の段階で中間的に作成しなければならないファイルがいろいろ出てきます。例えばEPUBであれば、あれ中身は事実上XHTML+画像データですから、作業段階で校正刷り代わりにHTMLを渡して著者に中身を確認してもらう等の作業が発生することは十分考えられますし、独自フォーマットの電子書籍でも暗号化・難読化する前の生データを著者に渡すなんてことがあるかもしれません。
んで、特にDRM付きの電子書籍の場合、それらの中間ファイル等についてきちんと所有権を定めとかないと、著者から中間ファイルが外部に流出してDRMの意味がなくなる・本来非公開の技術仕様が漏れてしまうなんてことが起こりうるので、中間データについては出版社に所有権があると定めることでデータの流出を少しでも抑止しようとしているのではないかと。
ただそうだとした場合、現在の条文だと表記がおかしくて、池田氏のところの「追記」にあるような指摘を受けることになるわけですが。
とりあえず思いついたのはこの3つぐらいですが、他にも可能性あるかも。
果たして実際のところはどうなんでしょうか?